デザイナーインタビュー「長く愛される建築を」
福岡市中央区平尾に建つ「BRAMASOLE hirao/ブラマソーレ平尾」。
今回は、こちらの設計を手がけたナガハマデザインスタジオ一級建築士事務所のお二人にお話を伺いました。
※お二人共通のお考えということで、お話を一つにまとめさせて頂きました
>設計に取りかかる際、まず何を考えられましたか?
この建築だけにかかわらず、僕たちは計画する際、建物とまちとの関係は?など、社会と建築の関わりについて二人で議論します。僕たちは二人で設計しているので、言うなれば僕たちも一つの社会。ここから建築が社会性を帯びてくると考えています。
今回の現地周辺にはバルコニーが前面にある一辺倒なマンションばかりですが、大通り沿いなので、実際には使われておらず、人気(ひとけ)のない寂しいイメージ。対して当プランでは、逆のことを提案しました。バルコニーは表に出さず、四角い窓が規則的に並ぶファサードを計画。バルコニーを介さず、まちに直で向き合うかたちです。
>なるほど、まちに対して開く感覚ですね
そうです。そうすると、通りから見ると色んなカーテンや照明が見えてきて、生活の気配を感じる事ができます。
>意識の高い方がターゲットになりそうです
結果的には、そういうことになるかもしれません。でも、色んな趣味のカーテンとかがあって良いと思います。様々なテイストがファサードというフィルターを通して見えてくる感じが楽しいと思っています。
>楽しいといえば、楽しい感じのする黄色の建物ですが、賃貸住宅としては珍しい色だと思います。どのようにして決定しましたか?
はじめにオーナーから「トスカーナの休日」という映画に出てくる「ブラマソーレ(BRAMASOLE)」と名づけられた家のようなマンションにしたいという要望がありました。映画の中で、訳ありの女性(主人公)が、ひょんなことから旅先で築300年の不動産を購入するのですが、それがブラマソーレです。主人公はブラマソーレを修復しながらそのまちで生活を始め、そこに面白い人たちが集まり始めて、色々とドラマがありつつも最終的には皆で楽しく暮らす、といった、なかなか良いお話です。
>二人で一緒に見たのですか?
いえいえ、別々に見ましたよ(笑)でも見た後に、互いに出し合った色が偶然黄色系でした。映画のブラマソーレはピンクの壁にグリーンの屋根なんですけどね(笑)
>タイルでなく、全面塗装というのも最近の建物では少ないと思います
そうですね。塗装にしたのは、質感が良いし微妙な色合いを出しやすかったから。また、塗装だったら、色を塗り変えやすいでしょ。メンテナンスが必要な時期に、その時代にあった、もしくはオーナーの気分にあった色に塗り替えてもらいたいと考えています。
>なかなか見かけない外観ですが、室内も70㎡弱のワンルームと珍しい。通常は2〜3LDK位のサイズだと思いますが
エリア的なニーズからファミリーではなく、SOHOや余裕のある単身さんとかカップルをターゲットに想定しました。その上で、まずは、LDKという固定化されたものを疑おうと考えたんです。テレビで、今時の若者は音楽をステレオで聞かないと話していましたが、それは単純に音楽を聴くデバイスやシチュエーション、スタイルが変わったから。テレビを持たず、ベッドでスマホの動画を楽しむ人だって最近はたくさんいます。ライフスタイルの変化やIoTの浸透が予想される今、LDKのように固定化されたスタイルを見直す必要があると思っています。
>リビングで寛ぐのではなく、寛いでいる場所こそがリビング、みたいな感じでしょうか?
そんな感じです。だから僕たちは今回の計画で、場所に用途を固定しない、自由に使える空間を目指しました。まずは大きなワンルームとして枠を決め、水廻りを合理的に集めることに。あとは図面上で水廻りの位置をずらしながら色々と検証した結果、コアのある回遊性のあるプランになったわけです。
どう使うの?と聞かれますが、あえて言いません(笑)。もちろん、色んなパターンを想定して設計していますよ(笑)。どう使うかを考えるのは楽しい時間だと思うし、実際、どのように使って頂けるかは、僕たちにとって楽しみなことです。
>バルコニーを通って玄関というのも斬新です
そうですね。でもこれは理にかなった考えで、先ほどお話ししたように、まちなかの大通り沿いだったら、バルコニーはこの場所の方が使えます。また大きなEVにしているので、大切な自転車を持って上がることも。今、高価な自転車に乗る人が増えているし、自転車中心のライフスタイルをお持ちのフリーランスの方もたくさんいるでしょ。屋根付になるし、愛車を保管する場所としても最適です。それから、バルコニーの延長の様な感じで、室内には大きな土間空間をもうけています。お客を招きやすいスタイルなので、住民の方たちのコミュニケーションの活性にもつながったら嬉しいです。
>小屋の様な塔屋のある屋上も面白いです
屋上って、使えても殺風景なものが多いと思います。でもそれだと楽しくないですよね。屋上だから簡単でいい、ではなく、屋上だからこそできる面白さがあると考えます。それで今回の計画では、螺旋階段にして可愛い小屋の様な塔屋を建てました。おとぎの国に上っていくような楽しさがあると思っています(笑)。
>アプローチを兼ねたバルコニーや広い土間、面白い屋上など、他では見られないものばかりですね
はい、差別化を考えたらこうなりました。これだけマンションの供給が続く今、他と同じようなものだと、古くなれば競争力の落ちることが目に見えています。だから、長期に渡って差別化できる建築にしようと。結果、面白いけれどメンテナンスや更新がし易く、ライフスタイルの変化に対応していけるシンプルで自由な計画になったと思います。色だって、その時代やその時の用途にあったカラーに塗り替えてもらえれば良いですし。
この建築が、映画の中のBRAMASOLEのように、いつも賑やかで時代とともに手を加えられながら、平尾の街で永く愛される事を願っています。
2017年12月 ナガハマデザインスタジオにて
ナガハマデザインスタジオ 一級建築士事務所
共同主宰:板野純 川上隆之